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【スタートアップの罠】資金調達に成功した瞬間から、罠が始まっていた。「Valuationが高い=順調」という幻想がスタートアップを静かに殺す理由

時価総額40億〜100億円の間に存在する「EXITの谷」とは何か。IPOにもM&Aにも詰む中途半端なValuationの罠と、出口戦略の逆算設計を読み解く。

この記事の3つの学び

  • 東証グロースでの上場には実質的に時価総額100億円以上、機関投資家が本格参入するには300億円以上が必要であり、その間の水準にいる会社はIPOにもM&Aにも詰みやすい「EXITの谷」に落ちる
  • Valuationの上昇は「事業が正しいから」だけで起きるとは限らず、市場の熱狂やファンドのポートフォリオ都合など創業者の実力と無関係な理由でも起こりうる
  • ダウンラウンドは失敗ではなく市場の現実に価格を合わせる行為であり、実態と乖離したValを守り続けるコストの方が、谷に落ちるコストより大きい場合がある

資金調達に成功した瞬間から、罠が始まっていた

資金調達に成功した。

プレスリリースを出した。業界メディアに取り上げられた。創業仲間とシャンパンを開けた。

Val(バリュエーション)40億円。次のラウンドで100億を目指す。

——その瞬間から、静かに罠が始まっている。

まず「EXITの谷」という概念を理解する

日本のスタートアップエコシステムには、今、見えない崖がある。

時価総額にして、だいたい40億〜100億円の間だ。

ここに落ちた会社は、出口が見えなくなる。

なぜか。二つの方向から同時に詰まるからだ。

まずIPO側から見る。

東京証券取引所のグロース市場では、時価総額100億円未満での上場は実質的に難しい。審査が通らないか、通っても「上場しても意味がある規模か」という市場の現実に潰される。機関投資家が動けない、流動性が出ない、アナリストがカバーしない。

では100億を超えればいいか。

それでも足りない。

機関投資家が本格的にポジションを取るには、時価総額300億円以上が必要だ。 100億〜300億円での上場は「一応できる」が、機関投資家に無視される。株価が育たない。流動性が死ぬ。「上場ゴール」と揶揄される状態になる。

次にM&A側から見る。

「Valが上がりすぎているから売れない」という現実がある。

特に複数ラウンドを経て優先株ホルダー(VCなど)が複数いる会社は、構造がさらに複雑になる。買収側は普通株だけでなく、優先株の清算優先権も全部飲まなければならない。買い手にとってのコストが跳ね上がり、交渉が成立しない。

結果として何が起きるか。

Val40億〜100億円の「中途半端な水準」にいるスタートアップは、IPOするには規模が足りず、M&AされるにはValと株式構造が複雑になりすぎて買い手が動かない、という二重の罠に落ちる。

これが「EXITの谷」だ。

そして今、この谷に気づかずに落ちていくスタートアップが、日本中に増えている。

なぜ「Valが高い=順調」というバイアスが生まれるのか

人間は数字に支配される。

「前回ラウンドからValが上がった」という事実が、創業者の認知を歪める。

上がったということは、投資家が評価したということだ。評価されたということは、事業が正しいということだ。正しいのだから、このまま進めばいい——。

この三段論法は、論理的に見えて、致命的に間違っている。

投資家がValを上げる理由は「事業が正しいから」だけではない。

市場が熱狂していたから。ファンドのポートフォリオに「AI系」が必要だったから。このラウンドに乗らないと次のディールに呼ばれなくなるから。——そういう理由でValは上がる。

創業者が見ているのは「自分の事業の実力」だ。 投資家が見ているのは「ポートフォリオの最適化」だ。 この二つは、一致することもあるが、構造的に別の話だ。

それを混同した瞬間から、創業者は「Valを守ること」を目的にし始める。

ダウンラウンドを恐れる。M&Aのオファーを断る。「まだ早い」と言い続ける。

その間にも、キャッシュは燃える。市場は動く。競合が現れる。

気づいた時には、谷の底にいる。

「ダウンラウンドを恐れない」とはどういうことか

ここで一つ、鮮烈な事実を提示する。

世界で最も成功したスタートアップのいくつかは、ダウンラウンドを経験している。

Square(現Block)は2009年、前ラウンド比で大幅に低いValでの調達を選択した。Dropboxも同様だ。日本でも、名だたるスタートアップがダウンラウンドを経て、その後に上場した例がある。

ダウンラウンドは「失敗」ではない。

「市場の現実に価格を合わせた」という行為だ。

むしろ恐ろしいのは、市場の現実と乖離したValを「守り続けること」だ。実態より高いValを維持するために、数字を作りにいく。無理な施策を打つ。投資家向けの説明に時間を取られる。

その全てが、本来使うべきリソースの無駄だ。

創業者にとってのダウンラウンドの本当のコストは、自尊心だ。 プレスリリースに「前回比ダウン」と書かれることへの恐怖。チームへの説明の気まずさ。——でも、そのコストと「谷に落ちるコスト」を天秤にかけたとき、どちらが大きいか。

答えは明らかだ。

ここで話は核心に入る

「EXITの谷」を理解した。「Valのバイアス」も理解した。

では、実際にどう動けばいいのか。

谷に落ちないための「出口戦略の設計」は、具体的に何を変えることなのか。

そして「早期CASH化」と「M&A」と「IPO」の三択を、どのタイミングでどの基準で判断するのか。

さらに——今のラウンドで「Valをどこで止めるべきか」という、投資家との交渉における実践的な判断軸は何か。

この問いに答えを持っているかどうかで、次の3年が変わる。読んで損はしない。断言する。

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